たてものエッセイ|狂言「鬼瓦」
狂言の演目に「鬼瓦」というものがあります。
狂言は日本古来のミニコント、みたいなものです。時間も短い喜劇。
屋根材を扱う建築素人としては、この「鬼瓦」というキーワードに引っかかりました。狂言「鬼瓦」とはどのようなストーリーなのでしょうか?
古典芸能だからといって恐れることはありません。
あらすじや面白さのポイントなどを見ていきましょう。
訴訟のため何年ものあいだ故郷をはなれ上京していた田舎大名。今でいう単身赴任みたいなものでしょうか。
ついに晴れて故郷に帰ることとなりました。
太郎冠者(狂言の役。召使のことです)を連れて、日ごろ参拝していた「因幡堂の薬師如来」に出向き、お参りしていこうということになったのです。
お礼参り後、大名は自分の田舎にも薬師如来をお招きし、御堂を建てようと因幡堂を見学します。
建物のあちこちを見回っていた大名は、因幡堂の破風にある「鬼瓦」を見て号泣。
聞けば「故郷に残してきた妻を思い出した」とのこと。
これ・・・これですよ。鬼瓦に似た奥様。団栗目に団子鼻、そして大きな口。まあかなりいかついとは言え愛嬌はあります(奥様にフォローです)。
これを見て故郷の妻を思い出し、懐かしんで大名は大泣きしたのです。
鬼瓦に例えられた奥様としては侮辱されたような複雑な気分でしょうが、この大名としては奥様が恋しかったのでしょう。
「もうすぐ会えるじゃないですか」という太郎冠者の慰めにより、大名は気を取りなおし二人で大笑い。
めでたしめでたし。
最後に大名と太郎冠者が二人声を合わせて大笑い、という終わり方。
これは狂言で「笑い留め」という手法です。
目出度い祝言(いわいごと)の無邪気でハッピーな笑いが狂言の魅力のひとつでもあるようですね。
鬼瓦のほかには、姿は魚で頭は虎という逆立ち姿の「鯱(しゃちほこ)」。この字は日本で作られた国字です。
飛鳥時代に日本に伝えられたとされる奈良東大寺大仏殿で有名な「鴟尾(しび)」(訓読みではとびのおと言います)や、沖縄などで見られる伝説の獣「シーサー」など、いろいろあります。
いずれも魔除け、火除けの意味も持っているのです。
鬼瓦のルーツは、シリアの遺跡である「パルミラ」の入り口上にある厄除け代わりのメドゥーサがシルクロードに乗り中国に伝来し、更に日本の奈良時代に遣唐使により急速に広まったもの、とされています。
メドゥーサはギリシャ神話に登場する怪物で、ゴルゴーン三姉妹の三女にあたります。
メドゥーサ、どんなお顔かご存知でしょうか?
頭髪は無数の生きた毒蛇、イノシシの牙、その眼を見た者を石に変えてしまうという相当恐ろしい容貌です。
イタリアバロック絵画の画家カラヴァッジョや、同じくバロック絵画の画家ルーベンスによるメドゥーサ像がみなさんが見ているかも知れないポピュラーなイメージなのではないでしょうか?
メドゥーサのその姿は、シルクロードを通る間に鬼瓦になってもさもありなん、な迫力ある表情をしています。
これは確かに魔除け、火除けになりますね。
町を歩いていると瓦屋根の家はいまでもたくさん建っていますよね。
中には立派な構造の屋根を冠した御殿もあり、それをちょっとばかり見させてもらったなら、そこには立派な「鬼瓦」が見つかるかと思います。
また、寺院などの古い建築物にも立派な鬼瓦がついています。
旅行の際の神社仏閣巡りなどで見つけては、シルクロードのロマンに心を馳せるのも良いかと思います。
鬼瓦のその役割や由来、種類の詳細などを書いてあるコラムもございます。
(「鬼の形ではないが、鬼瓦と呼ばれる理由は??豊中市北条町」:参照)どうぞそちらもご覧ください!
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